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大阪家庭裁判所 昭和56年(家イ)1483号 審判

申立人 安田一平

相手方 大原安子

主文

本件申立を却下する。

理由

一  申立人は「被相続人安田義一所有の別紙祭祀財産(系譜・祭具・墳墓)の承継者を指定する」旨の審判を求め、申立の実情として次のとおり申述した。

1  被相続人安田義一は昭和五〇年一〇月一三日徳島市で死亡し、相続が開始した(最後の住所徳島市○○○町×丁目××番地)。

2  被相続人の相続人は相手方と長男正夫の二人で、相手方は現在大原和夫と再婚、正夫もその養子となつている。

3  申立人は被相続人の実父であり健在で、安田の姓を継いでいるので、祭祀を承継し度いと考えているのであるが、相手方は位はいを渡さずこれに応えない。

4  被相続人は祭祀の承継者を指定せずまたこれを承継すべき慣習も明らかでないのでその承継を求めるため本申立に及んだ。

二  当家庭裁判所調査官の調査報告書その他一件記録によると申立の実情と同旨の事実が認められる外次の事実が認められる。

1  別紙記載の位牌は現在相手方が所持し、その墳墓は徳島市○○×丁目○○寺内に存在する。

2  ところで右位牌については相手方が右同寺院に礼金として金七万円を支払つてこの交付を受け、その墓石の注文および右墓地の手配は申立人によつてなされたが、右墓石代および右同寺に対する墓地使用権の対価たる礼金名義の費用等計一〇〇万円は全て相手方によつて支払われているもので、その結果昭和五一年九月に右同寺院内に本件墳墓は存置されるに至つたものである。

三  ところで、祭祀財産の承継者指定の制度はもともと被相続人の所有に属し、その限りで本来遺産の一部であるところのものを、その性質上分割相続に適しない等の理由からこれを他の相続財産から除外し、その承継者を別に定めることにしたものである。

要するに、祭祀承継の対象たる祭具、系譜、墳墓等は本来被相続人の所有又は権利に属していたものに限るのである。

そこで本件について見るに、以上の事実によると申立人において主張にかかる別紙記載の位牌および墳墓はいずれにしても被相続人死後において、相手方において出捐の結果これを求め、或は権利を得て墓碑を建立したものであることが認められるのである。

して見れば、本件位牌、墳墓共に被相続人の所有或いは権利に属していたものでないことは明らかであるから、本件祭祀財産についてその承継を論ずる余地は全くないものと言う外はない。

四  以上の次第で本件申立はその余の事実について判断するまでもなく理由がないので却下するを相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 丸藤道夫)

別紙〈省略〉

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